【書評】「MEDIA MAKERS」はウェブサービスを再度考えさせる本

巨大オフラインメディアでも巨大オンラインメディアでも、活躍されている田端信太郎氏の「メディア」に関する本です。

メディアの定義部分は本書にお任せするとして、一番おもしろいと思ったのはコンテンツ軸でのメディア分析部分です、具体的には

・ストック ⇔ フロー (時間的視点)
・参加性 ⇔ 権威性 (発信者評価的視点)
・リニア ⇔ ノンリニア (ストーリー的視点)

の3軸です。この3軸を知ることで、もう一度自分が関わっているメディアというものに関し、分析をし、次の展開を模索する助けとなるような気がします。

時間的視点では、本のようなストック型の情報からマイクロブログのフロー型の情報まで、時間経過によって失われる価値の度合いが異なるわけですが、インターネット上のコンテンツでもWikipediaのようなストック型情報や、今後電子書籍というストック型情報が着実に増えていくことは間違いありません。

メディアとして市場が小さくなりつつある雑誌コンテンツは中間に位置するものと本書ではされていますが、雑誌のコンテンツも分野によってはストック型情報にも関わらず、1ヶ月で購入できなくなるという儲け的観点から強制的にフロー型になってしまっているものも多いと感じます。というより、むしろそのような事例のほうが多いのでしょう。ある程度情報が集まった段階でムック本のような形で出版し、ストック型情報として力を持つものとすることも出来るとは思いますが。

このあたりは結構難しい問題ですよね。

発信者に対する評価的視点としては、食べログとミシュランガイドを対比する例がありますが、この例は非常に微妙と言わざるを得ません。ミシュランガイドの権威性の説明部分で、大事な人を招待するなら食べログよりミシュランガイドでしょ?みたいな論調部分です。

しかしながら、人は常に大多数の意見と1権威者の意見を時と場合によって使い分け、利用しているのではないでしょうか?

食べログの中でも「あの人が旨い!と言った店は本当に美味しい」というパターンも出始めていると聞いたことがありますが、食べログという一つの中でも大多数の★による意見を参考にする場合もあれば、誰かを食事に誘うシチュエーション等、その状況に重きを置く場合や「美味しいものを食べたい!」、「あの人のファンだ!」といった場合には、その情報発信者自信の権威が重要となるわけです。

インターネットで、1個人または1企業などで権威が発生した場合、それを追うための手段として本書でメディアツールと言われている部分に入ってくると思いますが、RSSリーダーやFacebook内の購読(フォロー)といった仕組みが有効になるのではないでしょうか?

むしろ参加性メディアの中に影響力を持つ人物や媒体を発生させなければ、その参加性メディアは生き残ることが出来ないのではないかと感じるのです。その意味において、参加性メディアとしてはその影響力を持つ人や媒体を生み、かつ最大化させるためのフォローや情報が定期的に入ってくる仕組みづくりが大切なのではないかと感じています。

ストーリー的視点としての「リニア」という概念は今インターネット上で重要視され始めてきた分野なのかもしれません。本書で例として挙げられているのは「映画」で、つまりリニアとは「頭から最後まで見てもらうこと」を想定されたものを指しています。

インターネットにおいてコンテンツは細分化し、ウェブサイトのTOPから順を追ってたどる人よりもむしろ、検索によってピンポイントにコンテンツへランディングする人が多いわけで、その意味でインターネットはノンリニアに特化したものと言えるわけですが、今インターネットにおいて最も考えなければならないポイントはこの「リニア」の部分で、例えば本書でも出てくるペルソナを想定し、かつそのペルソナのストーリーを考え、ウェブでそのストーリー通りにたどる導線の設計が必要とされています。

また、より大きくジャーニーマップ的にそのウェブサイト外も含めたストーリーの中から、そのウェブサイトを再定義し、ストーリーにサイトを組み込んでいくことが今盛んに議論されているウェブマーケティング的な思考だと感じています。ひとくくりにUXと言ってしまえばそれまでですが。

すごく考えさせられたのは、インターネットにおいてノンリニアとリニアをメディア側が提供するものなのか否かという事です。
R25という雑誌においてリニアが意識されていることが本書で述べられていますが、ウェブサイトへランディングした人の目的や思考がリニア的なものを望んでいるのか、それともノンリニア的に例えばECサイトで価格さえ見れれば良しと考えているのか否かをメディア側がどう意識し、ウェブサイトを設計する必要があるのかということです。

もちろん結論としては、ウェブサイトにノンリニア的な欲求で訪問する人とリニア的な欲求で訪問する人の両者がいるのであれば、両方のニーズを満たすことが重要なわけです。
例えばECサイトにおいて「欲しい」という欲求はノンリニア的なものが多いと思われるので、即座にアフォーダンス的な障壁無く購入できる流れを構築することが重要ですが、一方でその商品の機能を見たり、その商品で何が出来るかを知りたいと思った人には、実際に使っている人のレビューやストーリーが読み物として成立しうる見せ方が重要となるでしょう。

カメラなんかが特にいい例ではないでしょうか?
開発者ストーリーが提示され、そのカメラで撮影された写真のサンプルがあり、自分の中でのストーリーと親和性が高いコンテンツに仕上がっています。Flickrで提供されている、あるカメラでどのような写真が撮影されているのかという視点もノンリニア的ですが、最初から最後までとは言わずともダラダラ見てしまう点から言えばリニア的な側面もわずかながら存在しているのかもしれません。

こう見てくると、1サイトとして見た場合のリニア・ノンリニア的側面と、1コンテンツまたは1特集として見た場合のリニア・ノンリニアというものが定義出来るのではないでしょうか?

この「コンテンツ」軸に考えるメディア論は、恐らく読む人によって様々な意見や考え方、そして自分の考えを深めてくれる章なのではないでしょうか?

さらっと読めてしまう部分ですが、考えて読むと難しくてなかなか自分の考えがまとまりませんでした。

色々読んでくると田端さんがオフラインメディア的思考が強い人なんだなと感じてきますが、最後に一つだけ。今ウェブ広告業界は、どのサイトが最もエンゲージメントが高いかを争っている状況となっており、その意味においてPV価値なんて言っていては既に時代遅れだと私は思っています。


MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体
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