インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針
心理学に精通する著者が、認知心理学、社会心理学、統計学的な知見から人の行動や特長を説明し、その上でウェブインターフェースを考える上でのポイントをまとめている本です。
タイトルにあるとおり100におよぶ人間の行動原理を通じて導かれるポイントとしては重複するものもありますが、はっと気付かされるものも多いでしょう。
心理学を学問としてかじったことがある人、および同系統の本を読んでいる人にとっては知っているものも多いと思いますが、それをウェブインターフェースへと繋げて理解できているかというと、そうでもないかもしれません。その意味では本書でポイントとして概念を端的に示している点で、若干疑問を持つ部分はあったものの非常に評価できるものだと思います。
再度考えさせられたのは「メンタルモデル」と「概念モデル」の部分です。「メンタルモデル」とは「対象のシステム(ウェブサイト、アプリケーション、製品など)を利用者が(心の中で)どう捉えているかを表現したもの」です。「概念モデル」とは「実際にシステムを利用するユーザーが、そのシステムのデザインやインタフェースに接することによって構築するモデル」のことです。
すなわち、通常「メンタルモデル」と「概念モデル」に差異がない、つまりユーザーが期待するものとウェブインターフェースに差異がない場合に最もコンバージョンが高い、またはその他ウェブのKPIが高い効率のよいサイトになるというものです。
ウェブマスター側はその「メンタルモデル」を把握するために、エスノグラフィやアンケートなど、様々な手法を用いて代表的なモデルを作り出し、それをペルソナとするわけです。そのペルソナから「概念モデル」を作り出す事が大事とされていますが、ユーザーの知識レベル、想定した特定グループと実際のユーザーが外れる事により使い勝手が悪い、または人々に受け入れられないサイトと化してしまう事があります。ペルソナは1体である必要はありませんが、本書を読んでいるとターゲットが外れていないという前提でも複数体作っておく必要があるかもしれないと感じました。
本書ではなく、別の著者の書かれた本で述べられていますが、人の行動の95%は無意識の部分による意思決定とされています。「メンタルモデル」と「概念モデル」が不一致となると、無意識レベルから意識上に引き上げられます。
そうなることで、そのサイトに対しマイナスのラベルが貼られたり、他社と比較されることによるマイナス評価やソーシャル系サービスへマイナス評価が拡散されることにもなるのです。
ただ、この「概念モデル」に関しては現在のところ、WEBで今まで培われてきたリンクは青文字下線有りのようなデザインなどのUIはもちろんのこと、ECであればAmazonのような一般的によく利用されるサイトのUIが期待されるわけです。
本書では新しくでてきたiPadで表示されるNew York Timesのデザインが、そういった従来のUIに則っておらず、クリッカブルな領域かどうかも判断出来ない状態だという問題が存在するとされています。
鶏卵ですが、クリックなどのマウスだけだった世界から数多くのデバイスやリモコンを使った操作などが行われ始めたため、「概念モデル」もそれに合わせて変更されることが必要なのかもしれません。
ウェブサイトに対する人の一般的な「メンタルモデル」はどこから生まれたかを考えると、ノーマンの「行為の7段階モデル」に従って行為のフィードバックの知覚、解釈、評価によって当初は形成されてきたと思います。そういう意味では、新しい「メンタルモデル」の形成は新しい「概念モデル」の形成から始まるのではないかと思うわけです。
プログレッシブ・エンハンスメントと同様の考えで、もしかするとIAだけでなく「概念モデル」自体もデバイスにより変えていかなければいけないのかもしれません。
まだまだタッチ操作に関するアフォーダンスという意味でのデザインは確立されていませんが、スマートフォンやタブレットに親和性のあるサイトが増えているなか、近いうちに新しい「概念モデル」が形成される可能性があることは間違いないでしょう。
ウェブマスターはそれに合わせてユーザーの「メンタルモデル」の微妙な変化に注意すべきだと思います。
ただし、新しい「概念モデル」が人の認知行動から外れる事はありません。本書で基本を学ぶことはとても価値のあるものなのです。
その他、全100指針全ての一読をオススメします。
インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針
0 コメント:
コメントを投稿